研究代表者は、計算機科学の手法を早くから生態学や進化の問題に適用し、一貫して「格子ロトカボルテラ模型」という確率模型で20年間研究し続けてきた。この手法は最近世界中で広まりつつあり、今なお光り輝いている。この研究を通じて、集団レベルでのリダンダンシー(ムダ、いいかげんさ)の重要性に着目するようになった。生物進化における最適化を考えるとき、単なる目先の最適化だけでなく、ゆとりやリダンダンシーを考慮しなくてはいけない。多くの長い間未解明のリダンダンシーが、理論的および統一的に取り扱えることが分かってきた。長期的なスパンでの最適化や、生態系というシステム全体の中での個々の生物を捉えることの重要性が分かってきた。 とくにたとえば性比の研究は特化している。我々の研究が、オスとメスの比率が1:1になることを世界ではじめてうまく説明する。この理論は、従来のフィッシャーの性比理論の困難・弱点を解決できる。これまで多くの生態学者は、出生性比と実効性比(実際の繁殖に係わるオストメスの比率)の関連が明確では無かった。このモデルでは、両者の関連が明確となる。最適性のためには、実効性比または出生性比が重要なのか?実際に産まれる子供の数を最大にする要素は何か?を考えた。当然ではあるが、最適化のためには適応度(次世代に引き継がれる子孫の数)が重要であることが分かった。さらに我々の理論は、はじめて人間の性比を説明した。人間など数種の動物では、オスがメスよりも出生比率が高い。進化とは適応度(子孫の数)を最大にすることである。しかるに子供を産まないオスがなぜ多いのか?我々の理論は、このようなリダンダンシーをうまく説明した。
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