研究課題
結晶は、なじみの深いありふれた存在である。しかし、その成長過程においては、生体酵素や化学触媒と同様な厳格な分子認識が存在する。例えば、分子に右手系、左手系の相違があるとき、結晶はそのいずれかの分子を注意深く選択しながら結晶内に取り込んでおり、成長界面で厳しい分子認識が行われている。高分子の結晶成長でも同様な分子過程が生起している。そこでは、成長界面での分子鎖の大きな構造変化と立体構造のゆらぎを通して、特異的な分子認識を伴った構造形成が行われている。高分子の高次構造形成に関しては、半世紀にわたって膨大な実験的研究がなされてきた。しかし、その素過程である分子鎖の折り畳みのメカニズムは現在でも大きな謎である。構造形成過程を"直接的に観測する事"が非常に困難であるという高分子特有の問題を抱えているからである。最近、この様な実験研究の閉塞状態を打破するものとして、分子シミュレーションを用いた"直接観察"が大きな注目を集めている。本研究では、複雑な螺旋高分子が結晶成長界面で見せる高度な分子認識過程の解明を目指す。我々の従来の研究を基礎に、近年急速に発展している新たな計算手法やソフトウエアを用いて、この難問に挑戦することを目指している。本年度の研究では、(1)比較的螺旋反転の障壁が低い分子系における、オリゴマー結晶の成長過程において、明瞭な螺旋認識過程が存在すること、(2)現実的な高い螺旋反転障害を有する系においても秩序形成過程を観測できること、および(3)結晶成長界面における分子鎖の折り畳み秩序化過程の直接観察とそこでの螺旋認識過程をあきらかにした。
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