1.色素細胞特異的にGFPを発現させたトランスジェニックマウスから単一の色素幹細胞を単離し、遺伝子発現パターンを調べた。その結果、色素幹細胞にはSox10やMiftといった色素細胞にとって重要な遺伝子が発現していないことを見いだした。この結果は、これら分子に対する抗体を使用した組織免疫染色によっても確かめられた。さらに、色素幹細胞では、Housekeeping遺伝子をはじめ多くの遺伝子の発現が低下しており、mRNAの転写が抑制されていることが示唆された。 2.色素幹細胞における転写抑制の可能性を調べるために、免疫組織染色法によりRNA polymearaseのリン酸化の状態を調べた。その結果、色素幹細胞では、転写複合体形成に必要なCTDドメインの5番目のセリン残基のリン酸化が認められたが、mRNAの転写伸長に必要なCTDドメイン3番目のセリン残基のリン酸化が認められないことがわかった。この結果より、色素幹細胞では、RNA polymearase CTDドメインの3番目セリン残基の脱リン酸化により、mRNAの転写伸長が抑制されていることが判明した。同様なRNA polymearaseのCTDドメインの3番目セリン残基の脱リン酸化は、毛包の上皮幹細胞でも認められ、毛包に存在する幹細胞に共通の現象であることがわかった。以上の結果より、毛包中の幹細胞ではmRNAの転写を負に制御することによって代謝状態を低位に保つことにより、代謝に伴う様々な障害から幹細胞を守っている機構が働いていることが示唆された。
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