近年認識の高まりを見せている「文化的概念」の取り扱いにあたって、まず景観研究の現状を踏まえた上で、景観研究が内包する近年の課題を整理し、その上で文化的景観を取り扱うことの意義について考察した。さらにわが国における文化的景観の代表例として、特に都市部においては宗教施設である神社仏閣の存在によって形成される、社寺林を中心に構成される地域の景観やが重要であることを示した。 社寺林の文化的景観の価値を規定するものとして、その自然立地環境とその信仰との関連性を重視し、対象を神社に絞り、東京都板橋区を中心に、渋谷区、中野区、新宿区、豊島区、北区、練馬区などにおいて50ヶ所の神社の現地踏査を行なった。『東京都神社名鑑』所収の神社について、信仰軸と地形の方向性の関係を中心に分析を行なった。その結果、神社における信仰軸、すなわち遥拝の方向と地形の関係にある程度の共通性が認められた。従来理解されている、遥拝方向に高所(山や丘)を擁する神社の立地は当然確認されたが、これとは反対の、遥拝方向に低所(谷、河川、沼、湿地)などを擁する神社が多数認められ、板橋区周辺においてはこのケースのほうが、高所遥拝型にくらべて事例の多いことが明らかとなった。またこうした神社は、特に埼玉県さいたま市の氷川神社を勧請した諸地域の氷川神社において顕著であった。この要因として、文化人類学的手法による古事記の分析により、従来の一般的解釈である「天-地」とは異なる、「地-水」関係を見出す既往研究の適用可能性について考察を行なった。さらに文化的景観として神社およびその周辺環境を価値付け、保全を図る際の留意点について整理を行なった。
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