食品中の細菌は、貯蔵および加工中に種々のストレスを受け損傷している。損傷菌は選択培地で増殖させることが出来ないため、検出する際には栄養豊富な非選択培地で十分培養し、損傷から回復させる必要がある。しかし、回復に時間がかかり、回復が不十分であると菌数を過小評価してしまう恐れがある。本研究では食中毒菌を迅速かつ確実に検出するため、Salmonella enteritidis(SE)の加熱損傷菌を用いて、回復機構について検討した。この最適条件で加熱したSEの、非加熱、加熱直後、液体培地中で回復1時間目の菌体からそれぞれ調製した菌体の全タンパク質の2次元電気泳動を行い、回復時に特異的に発現する7種のタンパク質のスポットを見いだした。これらのうちの2種についてはN末端アミノ酸配列が決定でき、相同性検索の結果、タンパク質伸長因子およびピルビン酸キナーゼであることがわかった。 加熱または酸化ストレス誘導性遺伝子88種について転写量を比較した。非加熱菌体、加熱損傷菌体、TSB回復菌体のRT-PCR産物量を比較すると、TSB回復菌体で特異的に多く転写されていたと思われる遺伝子が31種検出された。さらに、この31種の遺伝子について上記3種の菌体に緩衝液回復菌体を加え、各RT-PCR産物量を比較すると、TSB回復菌体において顕著に転写産物量が増加していたと思われる遺伝子は10種(mreB、clpX、hslU、lon、ppiD、ahpC、ahpF、katG、grxA、hslJ)検出された。これらの遺伝子はSEがTSB中で回復する際に、特異的に発現する遺伝子である可能性が高いと考えられた。
|