研究概要 |
本研究は,レポーター遺伝子を導入したgpt deltaラットを用い,肝発がん早期段階における遺伝子突然変異の関与について検索した.動物はFischer 344(F344)系とSprague-Dawley (SD)系の雄性gpt deltaラット(6週齢)を,実験系はコリン欠乏アミノ酸(CDAA)食による内因性とN-nitrosodiethylamine (DEN)による外因性の2種類のモデルを,発がん修飾化学物質としてはphenyl N-tert-butyl nitrone (PBN)を,それぞれ用いた.実験は,1群6匹の15群(第1-8群F344系,第9-15群SD系)で行った.第1・2・3・4群はCDAA食・CDAA食とPBN (0.13%混水投与)・コリン添加アミノ酸(CSAA)食・CSAA食とPBNを実験開始の2週間後から16週間投与し,第5・6群はDENを1回体重kg当たり100mgの用量で実験開始時とその1週間後の2回に腹腔内投与して第6群のみにPBNを実験開始の2週間後から16週間投与し,第7・8群はDENの替わりに溶媒のみを投与して第5・6群と同様に処理し,第9-13・14・15群は第1-5・7・8群と同様に処理した.全ての動物は,実験開始の18週間後に屠殺し,肝を摘出し,前がん病変発生,酸化性DNA傷害発生(8-oxoguanine;8-oxoG),遺伝子突然変異発生(gpt assay)に関する検索に供した,その結果,内因性モデルにおいて,CDAA食は,F344系のみで前がん病変を発生させた.8-oxoGレベルは,両系統ともCDAA食により増加したが,F344系でSD系より高値を示した.突然変異は,F344系のみでCSAA食・CDAA食双方により同程度に増加した.前者ではGC/AT transitionと欠失が増加し,後者ではそれらに加えて8-oxoG特異的とされるGC/TA transversionも増加した.PBNは,CDAA食による諸変化を全て抑制したが,CSAA食による遺伝子変異に影響を与えなかった.外因性モデルにおいて,DENは,F344系でCDAA食より多数・小型,SD系でF344系より多数(小型傾向)でCDAA食より多数・大型の前がん病変を発生させた.8-oxoGレベルは,両系統ともDENにより増加し,F344系でCDAA食より低値,SD系でF344系より高値を示した.突然変異は,両系統ともDENにより増加し,F344系でCDAA食より高値,SD系でF344系より高値でCDAA食より高値を示した.PBNは,DENによる諸変化に影響しなかった.以上の結果より,遺伝子突然変異は,内因性・外因性双方のラット肝発がん早期段階に関与するが両者でその役割が異なり,さらに,両者におけるラット系統差の発現機序にも関連しているものと示唆された.
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