研究概要 |
過眠症ナルコレプシーの原因にオレキシン神経伝達障害が想定されている.オレキシンの覚醒作用発現には特にヒスタミン(HA)調節系の関与が示唆される.本年度は,ヒスタミン合成酵素阻害剤α-fluoromethylhistidine(α-FMH)前処置によりHAを枯渇させた状態でオレキシンの覚醒作用抑制効果を検証する実験を中心に展開し,さらにグレリン,レプチンおよびNPYの食欲関連ペプチド類の睡眠覚醒調節への影響についても予備的な実験を行った.実験には脳波,筋電図用の電極および薬剤連続注入カニューレを第3脳室内に達するように慢性的に装着したSprague-Dawley系雄ラット(8週齢,体重300-350g)を用いた.オレキシンB10nmolはラット第3脳室内に明期に5時間かけて連続注入するが,それより7時間前にα-FMHを腹腔内投与により前処置しておくと,オレキシンBによって引き起こされる覚醒作用が抑制された.つまり,ノンレム睡眠はオレキシンB投与で119.8±25.1分で,対照の182.2±5.0分と比較すると34.2%の有意な減少であったが,α-FMHを前処置しておくと25.9%に抑制された.これは,α-FMHにより脳内のHA合成が阻害された結果,HA神経を介して発現するオレキシンの覚醒作用が減弱されたと推論される.一方,レム睡眠ではα-FMH前処置がオレキシンBによる抑制作用にほとんど影響しなかった.また,摂食調節と睡眠覚醒調節の関連に関する実験では,グレリンを明期の5時間(11:00-16:00)中枢に直接作用させると,投与後1時間で強い覚醒効果を示し2時間目にはほとんど元のレベルに戻る一過性の覚醒作用を示した.今後,レプチン,NPYの作用も検討しながら睡眠覚醒調節と摂食調節を統合的に解析していく.
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