睡眠・覚醒の調節にはアセチルコリンが重要である。アセチルコリンを放出するコリン作動性ニューロンは、REM(Rapid Eye Movement)睡眠時に強く活動することから、アセチルコリンはREM睡眠の調節に関わっていると考えられている。また、パーキンソン病やアルツハイマー病においてはREM睡眠の減少が見られ、同時にコリン作動性ニューロンの病変も見られることが知られている。したがって、これらの病気について、アセチルコリン活性の低下によるREM睡眠の減少が重要である可能性が考えられる。 そこで本研究では、睡眠調節に関わると考えられるmAchRのうち、mAchR1〜5それぞれのサブタイプの遺伝子欠損マウスについて、睡眠の各ステージ、特にREM睡眠をモニターしながら障害させる実験系を開発した。マウスの脳波と筋電図を計測しながらリアルタイムでコンピュータにより解析し、吸気中の二酸化炭素濃度を自由にコントロールすることで睡眠の各ステージを障害させることに成功した。この実験系を用いて、mAchRの遺伝子欠損マウスの睡眠、特にREM睡眠の変化を解析する。 また、アセチルコリンは睡眠だけでなく、概日リズムにも関わっている。概日リズムは光刺激とそれに伴う視交差上核の活動によってコントロールされているが、そこでアセチルコリンが重要な役割を担っていると言われている。したがって、アセチルコリン受容体の概日リズムの影響を調べるため、マウスの概日リズムを解析するための行動実験系、体温測定の実験系を作製した。この実験系を用いてこれまでに、プロスタグランジンE2(PDE2)が末梢の概日リズムを変化させる作用があることを見出している。これからさらに、アセチルコリン受容体の遺伝子欠損マウスについて解析する予定である。
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