・オレキシン系の欠損により、ナルコレプシーが起きるメカニズムを明らかにするため、除脳ネコを用い、筋トーヌスの変化に対するオレキシンの作用を調べた。 1.脳幹のアセチルコリンニューロン群(脚橋被蓋核:PPT)に電気刺激を与えると筋トーヌスは抑制され、筋緊張の消失(muscular atonia)が生じる。 2.刺激部位の近傍にオレキシン0.06〜1.0mM(0.25μL)を注入すると電気刺激によるmuscular atoniaは阻害される(起こらなくなる)。 3.黒質網様部(SNr)にオレキシンを注入しても、同様の効果が得られる。 4.オレキシンのmuscular atonia抑制効果は、PPTにGABAレセプターの阻害剤であるビキュキュリンを投与すると阻害される。 これらの結果から、オレキシンがSNrやPPTに存在するGABA作動性ニューロン、あるいはPPTのGABA作動性ニューロン終末を活性化し、PPTでのGABA放出を促進することにより、muscle atoniaの発現に関与するPPTのアセチルコリンニューロンを抑制したと考えられる。 ・次にオレキシンによってPPTでGABA放出が増えているか否かを確かめるため、ラットを用い、マイクロダイアリシス法により、PPTでのGABA放出量を測定した。マウクロダイアリシスプローブの近傍にオレキシンを注入すると、GABA放出が基準値に比べ、最高70%ほど上昇し、有意な上昇が40分ほど続いた。 ・また、オレキシンを脳幹のアセチルコリンニューロンに直接投与すると、興奮性応答が見られるが、ニューロンの周辺に大量に投与すると長時間の抑制性応答が見られる。これは、オレキシンが記録ニューロンの周辺の抑制性介在ニューロンを興奮させた結果と考えられる。 以上の結果から、オレキシンは、PPTのGABAニューロンあるいはGABAニューロン終末に作用して、PPTでのGAGA放出を促進すると考えられる。
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