研究概要 |
本研究の目的は、妊娠中の体重増加による肥満が睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome ; SAS)を引き起こすか否かを明らかにし、さらに睡眠時無呼吸による夜間睡眠中の低酸素血症が胎児に流産や脳障害などの重篤な悪影響を及ぼすか否かの病態を解明し、それらの予防法や治療法を検討することである。 平成17年度の研究成果は、横浜の第69回日本循環器学会総会ファイアーサイドセミナーの講演「循環器疾患における睡眠障害の診断と治療」、宇都宮の第30回日本睡眠学会学術集会シンポジウム「妊婦のSAS合併に対する早期診断と治療の重要性」、さらに全国の医師会や地方の研究会でも多数報告した。その反響は非常に多大であり、妊娠中のいびきやSASの合併に関する産科医や助産師の感想は「気づかなかった」、「いびきの妊婦は個室で管理した」などであった。この原因は、これまで一般に胎児は低酸素に強いという理由から母体の一過性低酸素血症の問題を軽視し、重度のSASを合併した妊婦では、夜間睡眠中に特にレム睡眠中に高度の低酸素血症(SaO_2<70%またはPaO_2<40torr)が生じるなど誰も予測しなかったからと推察される(塩見他,日本醫事新報,No.4232,2005)。 現時点では、わが国で4人の重症SASを合併した妊産婦に対する在宅持続陽圧呼吸(CPAP)療法が行われているが、重度のSAS患者では未治療ならば高度の低酸素血症が毎晩レム睡眠中に生じることは事実である。CPAP治療が施行された4人のBMI(body mass index)は34.7〜55.4kg/m^2と肥満で、SASもAHI(apnea-hypopnea index)が93.1〜132.8/hrの超重症例であった。また最近、シドニー大学のEdwardsらが報告(Am J Pespir Crit Care Med,162;2000)したように、子癇前症(preeclampsia)に対するCPAPの降圧効果も注目されており、肥満の妊婦については妊娠高血圧症候群もCPAP治療対象の一つとしてターゲットとして追加することが、母体のみならず胎児の安全において非常に重要であることは間違いない。今後、重度のSASの合併は、産科では妊娠高血圧症候群の原因の一つとして、さらに周産期医療では妊婦の肥満が胎児にもたらす悪影響の一つとして重視されるべきであると考えられる。
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