研究課題
基盤研究(C)
アデノシンは脳内で睡眠誘発物質として機能簾する。脳内には4つのアデノシン受容体サブタイプ(A_1,A_<2A>,A_<2B>,A_3が存在し、A_1受容体(A_1R)とA_<2A>受容体(A_<2A>R)が睡眠誘発に関与すると考えられてきた。しかし、どちらが主要な役割を果たすかについて意見が対立していた。そこで、我々は、アデノシンの睡眠誘発に関与する受容体を同定するために、各受容体の遺伝子欠損(KO)マウスと選択的作動薬を用いた薬理学的実験をおこなった。AIR-KOマウスの通常時の睡眠は、野生型マウスと比べて変化が見られなかった。さらに、WTマウスと同様、断眠後のリバウンドとしてノンレム睡眠とレム睡眠量が増加した。しかし、A_<2A>R-KOマウスは、夜間活動時のノンレム睡眠とレム睡眠が野生型マウスに比べわずかに増加し、断眠後のノンレム睡眠の増加が見られなかった。カフェインはコーヒー・緑茶・コーラの成分であり、A_1RおよびA_<2A>Rに対して同等の結合親和性を持ち、それらの作用を阻害する。カフェインの覚醒作用がA_1RとA_<2A>Rのどちらの受容体の阻害によるのかに関しても議論が続いていた。そこで我々は、睡眠期の野生型マウス、A_1R-KOマウス、A_<2A>R-KOマウスに、カフェインを腹腔内投与して、その覚醒効果の有無を調べた。その結果、野生型マウスとA_1R-KOマウスは、カフェイン投与後の覚醒時間が用量依存的に増加したが、A_<2A>R-KOマウスの覚醒時間は全く変化しなかった。従って、カフェインの覚醒作用はA_<2A>Rの阻害によると考えられる。ラットへのCyclopentyl adenoslne(A_1R作動薬)の投与は睡眠覚醒サイクルを変化させなかった。一方、CGS21680(A_<2A>R作動薬)は顕著にノンレム睡眠を増加させ、睡眠中枢である腹側外側視索前野(VLPO)の活動を亢進し、GABA作動性神経を介してヒスタミン系覚醒中枢(結節乳頭核、TMN)の活動を抑制した。H_1受容体-KOマウスを用いて、H_1受容体刺激が中途覚醒を増加させ、睡眠から覚醒へのステージ移行を促進し、H_3受容体拮抗薬(Ciproxifan)による覚醒を仲介することを証明した。以上の結果は、睡眠調節で重要な役割を果たすアデノシン受容体は、A_1RではなくA_<2A>Rであり、その睡眠調節はVLPOとTMNのフリップ・フロップ機構により行われることを示している。
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