サルに約24時間の断眠負荷を与え、脳機能への影響を調べるために、認知課題における行動的解析及びポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)法を用いた非侵襲の脳機能イメージングによる解析を行った。認知行動課題における行動的解析では、視覚誘導性の単純反応課題(単純視覚反応課題のひとつで、目の前に置かれたモニターに提示される視覚刺激の左右の位置に対応し、モニターの下に配置された2つのレバーを押し分ける課題)の連続試行による反応時間(反応潜時、レバー間の移動運動時間、次の試行を始めるまでの待機時間)の変化を測定した。その結果、5頭のサルにおいて、断眠前後の行動を解析した結果、課題の正解率は断眠の影響を受けなかった。しかし、個体間のばらつきは多かったものの、すべてのサルにおいて反応時間の遅延が認められた。また、反応時間の詳細な解析によって視覚認知機能よりもむしろ、意欲を維持する精神機能が低下することが明らかになった。PETを用いて、断眠前後の脳内のGABA_A受容体の結合を調べたところ、断眠後に海馬、扁桃体、前帯状回など辺縁系において、アルファ5サブユニットを含むGABA_A受容体の結合活性の増加が認められた。さらに、各個体で認められた反応時間の遅延の度合いとこのGABA_A受容体の結合の変化との相関を解析したところ、反応時間の遅延と視床における結合活性との間に有意な正の相関関係があることが明らかになった。
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