今回の研究では初期の認知症患者の生活の質が縦断的にどのように経過するか調査し、有効な支援を行う方法を模索したいと考えた。まず、現状を把握するため横断的に介護負担感、日常生活動作、精神症状および認知機能の調査を行った。その結果、従来からも示されているように精神症状が介護負担感に与える影響が大きいことが示された。しかし、個々の精神症状によって負担感の度合いが違うこと、認知機能の良い時期、悪い時期で精神症状の出方が違うことなどを新たに示した。 次に認知機能の縦断的経過を検討した。アルツハイマー型認知症の診断され塩酸ドネペジル服用している患者を対象に初診時、6ヶ月後、1年後、2年後と認知機能検査を行った。MMSEの値の変化は服用前22.9±4.2、服用6ヶ月後22.7±3.9、1年後21.6±4.2、2年後19.7±5.3という結果であった。MMSEが3点以上6点未満の悪化を悪化群、6点以上の悪化を高度悪化群とすると2年後には悪化群25.4%、高度悪化群22.4%で約半数が悪化していたが、不変・改善群も半数以上見られた。更に、服用開始前の認知機能検査結果の特徴から2年後の悪化を予測できるか検討を行ったところ、服用開始前に実行機能の検査で高得点の患者は、認知機能の全般的な指標であるMMSEが有意に維持されることが明らかとなった。これらの結果から、塩酸ドネペジルで治療を行っている患者の認知機能が長期的にどのように推移するか推定できることが示せた。 更に、在宅療養認知症患者の日常生活動作を基本的ADL、手段的ADL、趣味などの高次ADLにわけて現在の状況を調査し、家族介護者が高次ADLについて、どのような介護・支援を行っているか聞き取りを行い調査・解析を行った。その結果、家族介護者のサポートにより高次ADLが比較的高く維持されていることが示された。
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