1.実験概要:大気汚染粉塵の曝露モデルとして、固定発生源からの代表的大気汚染粉塵である石油燃焼灰儘(ROFA)溶出液(50mg/ml)のエロソール曝露を用いた。正常妊娠マウス(BALB/c)の出産5、3、1日前にROFA溶出液を曝露し、出生した仔マウス(ROFA曝露群)に対し、生後3日に卵白アルブミン+alumを腹腔内投与により感作し、その後2週齢あるいは5週齢で抗原溶液をエロソール曝露して喘息病態を評価した。 2.結果(1):対照群のPBS曝露あるいは無処置母親マウスから生まれた仔マウスは、生後3日1回のみの抗原感作ではその後の抗原曝露によって著しい喘息病態を示さないが、ROFA曝露群では気道過敏性、好酸球浸潤を伴う気道炎症像、気管支肺胞洗浄液中の著しい好酸球増多、抗原特異的IgEならびにIgG1産生亢進をきたし、妊娠中に大気汚染粉塵に曝露されると出生した仔マウスの喘息感受性が亢進することが示された。 3.結果(2):仔マウスの脾細胞のサイトカイン産生能からTh2優位の免疫状態にあることが示された。一般に胎児期から出生時のTh2優位な免疫状態が出生後数日でTh1優位にシフトするが、ROFA曝露群ではTh2優位の状態が遷延し、抗原感作促進を示したと考えられた。また、出産直後の母親の免疫様態や哺乳の影響は否定的であった。一方、ROFA溶出液に含有される金属の経胎盤的な胎児への移行の影響が考えられた。 4.結論:妊娠中の大気汚染粉塵曝露が、出生後の次世代の免疫様態に影響し、喘息感受性を亢進することが示された。公衆衛生上も意味のある結果と考える。 5.追加発展実験(血管新生因子の喘息気道リモデリングへの関与と、抗血管新生因子の喘息病態抑制効果):幼小児期発症の気管支喘息の難治化抑制への展望をふまえ、マウス喘息モデルの病態における血管新生因子の役割を証明し、その阻害薬の効果を明らかにした。
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