研究概要 |
本研究は,知能情報学の一分野である帰納論理と代数学という異分野の研究者との合同研究であることから,年度前半はセミナーを数回開催することにより,計算論的学習,帰納論理,可換環の関係について,研究代表者と研究分担者の間で理解の疎通を図ることを行った. 具体的には計算論的学習における,(1)概念空間,(2)仮説空間,(3)正の訓練例,(4)仮説生成アルゴリズム,(5)極限同定という概念が,多項式環においては,(1)ある環のイデアル全体,(2)Groebner基底,(3)イデアルの要素,(4)Buchbegerアルゴリズム,(5)Noether性にそれぞれ対応することを確認した. さらに,この対応関係を帰納論理に応用するために,概念空間とイデアルの束論的な特徴である下方集合の関係について検証し,両者は酷似するものの,微妙な違いが存在することも明らかになった.すなわち,極限同定学習の概念空間は,その全ての要素が例示として学習者に与えられることを仮定するが,イデアルや下方集合においては,極大元が例示されれば十分であることが判明した. 次にプール環を用いた帰納論理として,ブール値データに対するサポート・ベクトル・マシンを取り上げ,そこにおける下方集合の役割を考察した.ブール値データに対するサポート・ベクトル・マシンの従来研究においては,DNFカーネルや単調DNFカーネルを用いた判別関数の計算法が考案されているが,本研究ではこれらのカーネルの計算がブール値ベクトルからなる下方集合の最大元の計算に一致していることを明らかにした.また,一階述語項からなる線形下方集合の最大元の計算は,無限次元のプール値ベクトル空間を用いることにより,単調DNFカーネルの計算と一致することを示した.この観察に基づいて極限同定学習とサポート・ベクトル・マシンを比較することにより,サポート・ベクトル・マシンに分類可能性の概念を導入し,それを下方集合を用いて特徴付ける研究が未着手であるという結論に至った.
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