研究概要 |
本研究では,工業製品から発せられる音の感性的側面(音質)に着目し,その経済的価値を貨幣タームで評価し,音質が商品性の向上にどの程度貢献するのかを明らかにする。 本年度は,掃除機とドライヤーの稼動音を対象とし,仮想評価法(CVM:Contingent Valuation Method)により,その音質に対する貨幣的価値を評価する実験を行った。先ず,製品カテゴリーごとにSD法(Semantic Differential Method)による音質評価実験を行い,不快な印象の刺激と快い印象の刺激を選択し,これらをそれぞれ音質改善前,改善後の音と仮定した。CVM実験では刺激を,改善前,改善後の順番で被験者に聴取させ,元の価格(掃除機:25000円,ドライヤー:3800円)に対して上乗せされる金額(掃除機:200〜20000円,ドライヤー:10〜5000円)を提示して,改善後の製品を購入する意思があるかを尋ねる実験を行った。実験では,製品を購入する際に重視する点,使用頻度といった製品選択に関わる内容や,性別,年齢,年収といった個人属性についても調査した。実験には176名が参加した。音質が改善した製品への上乗せ額(提示額)T,個人属性などを独立変数とし,回答者が「購入する」と回答する受諾確率P_<Yes>のロジットを従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。最尤推定法により推定された各独立変数の係数のうち,統計的に有意であった変数の係数をロジスティック回帰モデルに代入し,上乗せ額Tの関数として受諾確率曲線P_<Yes>を求めた。得られた受諾確率曲線より,音質の貨幣価値を支払意思額の中央値で評価した結果,音質の貨幣的価値は,掃除機で3026円,ドライヤーで469円と評価された。この評価額は元の価格の約12%に相当し,音質の改善が商品性の向上にかなり貢献することを示唆していると考えられる。
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