平成17年度は、談話において使用される不適切な指示詞や、つなぎ言葉を始めとする冗語等の頻度と、老化や認知失調症の進度との関係を調べることにより、談話分析が老化や認知失調症の進度判定に適用できるかどうかの解明を試みた。 「不適切な指示詞の使用」とは、聞き手との間で共有知識となっていないにもかかわらず、話し手がある事物を指示詞で表現してしまうことである。「つなぎ言葉を始めとする冗語等の使用」とは、話し手が適切な語想起をすることができないために、意図した言葉を発せられるまで、特に意味のない言葉を、間をつなぐために発することである。 まず40歳以上の被験者の談話データを分析し、不適切な指示詞や、つなぎ言葉を始めとする冗語等の頻度と、年齢との間にどのような関係があるかを調べた。次に、認知失調症の被験者を対象にして同様の談話分析に基づく認知失調症の進度と、従来の長谷川式検査法によって判定された認知失調症の進度との間の相関関係を調査した。 どちらのケースにおいても、両者の間に相関関係があるという結果から、被験者が自由に会話をするだけで実施できる、談話分析に基づく新しい判定法(以下、K式検査法)は、従来のテスト形式による認知失調症検査法に比べて被験者の心的ストレスが非常に少ない、新しい認知失調症検査法として利用できるポテンシャルを持つという結論を導き出すことができた。 これらの研究活動で得られた知見を日本認知科学会第22回大会で発表した。さらに、平成18年度にはこれらの知見を第5回認知科学国際会議で発表する予定である(発表申し込み済み)。 ※本研究では、被検査者の同意・協力やコンセンサスを得て、検査や訓練を実施する必要があった。そこで、研究協力者の指導を仰ぎ、被検査者の人権及び利益を保護するために取りうる全ての対策を講じた。また、検査結果などのデータの守秘義務についても徹底した。
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