研究課題
1.転写因子であるPax6のヘテロ接合体変異ラットの海馬スライス標本を用いて電気生理学的解析を行った。Pax6変異ラットでは海馬歯状回での成体ニューロン新生が減少していることがすでに明らかになっているため、野生型と変異型ラットより得られたスライス標本において、歯状回での長期増強(LTP)に異常がみられるかどうかを検討したが、GABA_A受容体を部分的にブロックした条件下での高頻度刺激によるLTPの誘導・発現には差がみられなかった。現在、膜電位感受性色素や多点記録電極を用いて、変異型ラットにおいて興奮の2次元的な広がりに異常が見られるかどうかを検討している。2.NMDA受容体のNR2Bサブユニットの細胞内ドメインのチロシン残基で最も強くリン酸化されるTyr1472をフェニルアラニンに置換したNR2Bサブユニットを発現するノックインマウスを作製し、その機能解析を行った。このノックインマウスでは、何も処理しない状態で扁桃体でのNR2Bのチロシンリン酸化の程度が5分の1程度に減少していた。このノックインマウスの扁桃体では、光学顕微鏡レベルでは構造的な異常は見られなかったが、電子顕微鏡レベルではNR2Bサブユニットの分布に異常が観察された。また、扁桃体スライス標本では、扁桃体外側核での通常のシナプス伝達そのものには異常がなかったが、LTPが顕著に障害されていた。さらに、個体レベルでは、音刺激による恐怖条件付けに異常が観察され、NR2BサブユニットのTyr1472のリン酸化がシナプス可塑性や恐怖学習に重要な役割を果たすことが明らかとなった。現在、このノックインマウスの海馬歯状回におけるニューロン新生と可塑性に異常があるかどうかを検討している。
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