研究概要 |
末梢から脳へ痒み信号を伝達する神経経路を明らかにすることを目的に,皮膚バリア破壊による掻痒症モデルマウスを作製して下記3項目の実験を行った。なお,本マウスは吻側背部あるいは後肢足部の脱脂処置により皮膚が乾燥し,顕著な落屑が観察された。それぞれの処置マウスでは頻繁に自発的な痒み関連の掻き動作あるいは噛み動作を現すことを,実験直前に確認した。1.痒みを伝える一次求心性神経の同定(継続中):in vitro背部皮膚-神経枝標本を作製して,single fiber recording法により,自発的に活動電位を発生する神経を探索した。その結果,健常なマウスでは見られない高頻度で活動電位を発生する2つの神経が見出された。何れも機械的な刺激には応答しない,いわゆるmechano-insensitive neuronであった。しかし,伝導速度の計測が困難であったため,これら神経の種類は同定できなかった。2.腰部脊髄後角と脳でのc-fos発現(継続中):腰部の脊髄後角表層に限局して,FOSを発現するニューロンが見られた。脱脂処置部位に保湿剤を塗布して作製した痒みの無い(噛み動作が出現しない)マウスでは,脊髄後角表層のFOS発現が顕著に抑制されたことから,この後角表層部位のニューロン群が痒み刺激を中継することを明らかにした。脊髄の他の領域では,顕著にFOSを発現する部位が認められなかった。3.In vivoマウス腰部脊髄後角ニューロンの神経活動の計測(継続中):健常マウスの脊髄後角においても,自発発火を現すニューロンが検出されたため,急遽,痒みのモデルを後肢足部へのハプテン(DNFB)塗布による接触性皮膚炎モデルマウスに変更して実施した。本感作マウスはDNFBの塗布により,一過性の噛み動作を現した。脊髄後角で広作動域ニューロンを検出して,足部の受容野にDNFBを塗布したが,神経活動の増加は観察されなかった。例数の追加とともに,他の種類のニューロンについても応答を調べている。
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