イムノトキシン細胞標的法は、遺伝子発現の特異性に基づいて特定のニューロンを神経回路から除去するための遺伝子改変技術である。この手法では、細胞タイプに特異的な遺伝子プロモーターを用いて、組換え体イムノトキシンanti-Tac(Fv)-PE40の標的分子であるヒトインターロイキン-2受容体αサブユニット(IL-2Rα)を発現するトランスジェニックマウスを作製し、この動物にイムノトキシンを投与することによって標的細胞タイプの破壊を誘導する。本研究では、高次脳機能の仕組みの解明や疾患モデル開発において有意義な実験系を提供するサルを利用して、脳神経回路における特定経路の役割を研究するために、イムノトキシン細胞標的法を応用した新しいアプローチ(イムノトキシン神経路標的法)の開発に取り組む。本年度は、逆行性に導入遺伝子を発現させるための組換え体ウイルスベクターシステムについて検討するため、GFPあるいはヒトIL-2Rα/YFPを導入遺伝子とするHIVタイプ1由来の組換え体レンチウイルスを作製した。これらの組換え体ウイルスは培養細胞において高い感染効率を示した。組換え体ウイルスをニホンザルの線条体に注入し、さまざまな脳部位での導入遺伝子の発現を解析した。注入部位である線条体において多数の細胞にウイルスの感染が観察され、黒質網様部や淡蒼球にも順行性の標識が観察された。また、黒質緻密部における一部の細胞にも逆行性に感染し、これらの細胞において導入遺伝子を発現することが観察された。以上の結果は、HIVタイプ1由来のレンチウイルスを用いることによって、逆行性に導入遺伝子を発現させることが可能であることが示された。今後、このような処理を行ったサルの黒質緻密部にイムノトキシンを注入し、黒質-線条体路を選択的に除去する実験系を開発する計画である。
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