研究概要 |
我々は寿命が約40日と短く、分子遺伝学が発展しているショウジョウバエを、新たに加齢性記憶障害(AMI)のモデル動物として開発し、AMIが記憶過程の全般的な低下ではなくamnesiac(amn)遺伝子が関与する記憶形成過程の特異的な低下によるものであること、さらにamnの平均寿命が野生型より約40%も延びていることを見出した。一方、amn変異体と同じ身体的特徴を持つ長命変異体methuselah(mth)の学習記憶行動を調べた結果、amn変異体と同じ記憶障害がmthで見られた。amn遺伝子は哺乳類Pituitary Adenylyl Cyclase-Activating Peptide(PACAP)とGrowth Hormone Releasing Hormone(GHRH)に相同性の高いペプチドをコードしている。この二つのペプチドはいずれもGタンパク共役型受容体に結合し、adnylyl cyclase(AC)の活性を制御することが知られている。そこで、本研究では先ずcAMP経路の記憶変異体から寿命を調べていった。rutbaga(rut)は、記憶中枢の一つキノコ体(MB)で多く発現しているACをコードしている。一方dunce(dnc)はMBで多く発現しているcAMP-specific phosphodiesteraseをコードしている。これら2系統で寿命を調べたところ野生型との顕著な差は見られなかった。そこで現在、異なる野生型バックグラウンドにこれら変異を置換し、もう一度寿命を調べているところである。長命変異体の多くはIGF経路に関わる遺伝子の変異体である。これら長命変異体で記憶障害が起きていないか、また、AMIも寿命の延長と伴に抑制されているのかを明らかにするため、IGF経路の長命変異体chico, SIR2,rpd3などの変異体を入手し、現在我々の学習記憶行動解析で用いている野生型のバックグラウンドにバックグラウンドを置換している状況である。
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