研究概要 |
アルツハイマー病は凝集性の高いβアミロイドペプチドが、脳内で長い時間をかけて凝集・沈着することが原因で引き起こされると考えられている。我々はこのペプチド断片が非酵素的に自己開裂および自己閉環することを見出した。まず、自己開裂と閉環がどのようなメカニズムでおこるのか、βアミロイドペプチドの6〜10番目のアミノ酸配列HDSGYをもとにアミノ酸を置換した様々なペプチドを製作して調べた。自己開裂は末端の2残基のアミノ酸がジケトピペラジンを形成して、開裂することを、質量分析およびプロトンNMRにより確認した。HASGY、ADSGY、HdDSGY、HNSGYのペプチドではHDSGYとほぼ同じ速度で自己開裂がおこるものの、HDAGYおよびHisoDSGYでは全く起こらなかった。これらから、自己開裂はN末端のアミノ基と,3残基目のSerのOH基が相互作用でおこり、サクシイミドの形成を必要としないことが明らかになった。また、自己閉環は末端の2つのアミノ酸がジケトピペラジン構造をとっていることを明らかにした。HNSGY》HisoDSGY》HDAGY、ADSGY、HdDSGY》HASGYの順でおこることから、自己閉環には2残基目のAspが必須であり、サクシイミド形成が自己閉環を促進することが明らかになった。次に、自己開裂と閉環現象が生体内でもおこりえるのか確認した。ラット海馬初代培養神経細胞またはマウス不死化視床下部神経細胞の培養液にβアミロイドペプチド断片を静置した結果、βアミロイドペプチドの6残基目のHisの露出が起こることを確認した。このHisの露出が自己開裂・閉環に必須であり、この切断を細胞レベルで確認した。閉環型βアミロイドペプチド断片をコンビケム固相合成装置で大量に合成し、それに対する抗体の製作を試みたが特異性が確認できなかった。
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