研究概要 |
奇形腫(テラトーマ)高発系マウスの精巣には始原生殖細胞(PGC)を起源とする精巣性奇形腫(STT)が発症し,卵巣には単為発生卵を起源とする卵巣性奇形腫(SOT)が発症する.本年度は,生殖細胞の生存や分化にかかわる変異遺伝子ter, Sl及びKaを組み合わせた多因子モデルマウスを育成し,又実験的奇形腫(ETT)原因遺伝子候補を導入したコンジェニック系の樹立を始め,それらを用いて次の成果を得た.他方,マウス以外の材料からも卵成熟の分子的知見を得た. 1.1%のSTT発症率をもつ129系の遺伝的背景にterおよびSl変異をヘテロに共存させた雄ではSTT発症率は70%に達した.これは申請者が見いだしたterホモ接合雄の94%につぐ.129系以外と129系とのF1雑種の遺伝的背景ではこれら変異のヘテロ雄にSTTは発症しなかった.これらの多因子マウスを用いてSTT形成過程を発生遺伝学的に解析している. 2.129系とSOT高発系LTXBJとのF1雌に生じた自然突然変異(仮称Ka, Kasumi)のコンジェニック系129/Sv-Ka/+とLTXBJ-Ka/+を樹立した.Kaホモ個体は白色黒目,貧血致死及び生殖細胞欠損を起した.交配実験や胎齢9日からPGC数が激減したことから,Ka遺伝子はKitの対立遺伝子で新規の幹細胞増殖因子遺伝子の可能性がある.129/Sv-Ka/+系のKaヘテロ雄の20%にSTTが発症した.LTXBJ-Ka/+系のKa/+卵巣では単為発生卵数が減りSOT発症率は半減した. 3.129系の実験的奇形腫(ETT)原因遺伝子の候補領域Ett1を奇形腫非感受系に戻し交配により導入し,コンジェニック系の育成を開始した.N2同士の交配で得た胎仔からETTが形成され,候補領域の有効性が確認された. 4.129系のETTの抑制遺伝子候補領域が染色体にマップされ,ett2と命名した.
|