異数性等の染色体異常は、ヒトではダウン症候群等の疾患を引き起こすだけでなく、多くの早期の流産の原因となっているにも関わらず、その病態や発生メカニズムの解明は必ずしも十分に進んでいない。我々は、最近、免疫抑制剤FK506に対する結合タンパク質FKBP6を欠損したマウスおよびラットにおいて減数分裂時の相同染色体の対合に異常を生じることを明らかにした。そこで、本研究は、Fkbp6遺伝子を欠損したマウス、ラットを用いて染色体異数性のモデル動物を確立することを目的として行われた。 Fkbp6遺伝子を欠損したマウス、ラットのホモ個体は雄では不妊であるが、雌では正常に卵形成が進行する。そこで、本研究では過排卵処理によりホモ雌より未受精卵を回収し、多数の未受精卵の染色体標本を作製し、それぞれの染色体数をカウントすることで、卵形性における異数性発生の頻度を求めた。Fkbp6+/+とFkbp6-/-の染色体標本を観察した結果、核が二つ見られる減数分裂第二分裂中期まで進行している正常な卵の比率はFkbp6+/+(45%)に比べてFkbp6-/-(21%)では有意に低かった。それに対し、核が一つしか見られず、第一減数分裂中期で停止していると思われる卵はFkbp6-/-(79%)の方がFkbp6+/+(55%)より高かった。さらにFkbp6-/-では染色体が極端に凝集した異常な卵(Fig.9.C)の出現頻度(26%)がFkbp6+/+(6%)より高かった。 未受精卵染色体標本の観察から、第一減数分裂中期で停止していると思われる卵はFkbp6-/-の方が多く、また染色体が著しく凝集した卵が多かったため、雌の卵形成の過程でも雄の精子形成過程と同様に、相同染色体の対合異常が起き、その結果、卵形成が正常に進行していない卵の頻度が高くなる可能性が示された。染色体の異数性の発生頻度にについては、現在、サンプル数を増やして検討中である。
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