【目的】一酸化窒素(NO)は、生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。NO合成酵素(NOS)には、神経型(nNOS)、誘導型(iNOS)、内皮型(eNOS)の3種類の異なったアイソフォームが存在する。各NOSアイソフォームに由来するNOの役割は、各NOSの単独遺伝子改変マウスを用いて、これまでに広く検討されてきた。しかし、3つのNOSアイソフォーム間には相互連関が存在するため、例えば一つのNOSを欠損させても他のNOSが代償的に作用し、NOSシステム全体としてのNOの究極の役割については依然不明な点が多い。我々は、この点を明らかにするために、NOS完全欠損マウス(トリプルn/i/eNOS-KOマウス)を作製し、その機能評価を行った。 【方法と結果】シングルNOS-KOマウスを異種交配させて、3年をかけて、トリプルn/i/eNOS-KOマウスを創出した。n/i/eNOS-KOマウスは、胎生致死ではなく誕生した。Western blot解析で評価したNOS蛋白の発現、及びL-citrullineアッセイで評価した全NOS活性は、lipopolysaccharide投与前後において、全く認められなかった。n/i/eNOS-KOマウスにおける出生率と生存率は、野生型マウスと比較して著明に低下していた。Tail-cuff法で測定したn/i/eNOS-KOマウスの覚醒下の血圧は、eNOS-KOマウスと同程度の高血圧を示した。重要なことには、n/i/eNOS-KOマウスは、低張性多尿、多飲、及びvasopressinに対する腎臓反応(抗利尿反応)の低下を示し、腎性尿崩症の病態を呈していた。 【結論】NOS完全欠損マウスの開発に、世界で初めて成功した。このマウスはヒト腎性尿崩症に酷似した病態を示したことから、NOSシステムが特に腎臓の恒常性の維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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