研究概要 |
本研究は,組織から透過した近赤外領域光に瞬時差分分光スペクトル分析を行い,妨害物質である組織成分を除去して,血液成分のみに由来する信号成分を抽出し,血糖値を非観血的に計測する方法を探究する基礎的研究を行うことを目的とする。今年度は,研究実施計画で記載したように、血漿および全血試料を用いた血糖計測に関して,(1)分析手法と(2)石英セルによるin vitro試験を実施した。その結果,試料中のグルコース(GLC)濃度変化(61〜455mg/dl)に対して分光スペクトル(波長900〜1700nm)が微小ではあるが有意に変化し、非線形であるが共線性を有していることが確認された。この様な非線形データに含まれる規則性や類似性から検量モデルを構築する際に有効な統計的手法(ケモメトリック法)のうち、簡易性と汎用性からPLS (Partial Least Squares)法およびニューラルネットワークの一つであるRBF (Radial Basis Function)法を採用した。 次に,上記のGLC濃度を有する血漿および全血(ヘマトクリット;27〜53%)試料(241サンプル)を用意し、吸光スペクトル計測を行って、これを0〜1で規格化したデータ群により前記PLSおよびRBF法で検量モデルを構築し,GLC濃度未知試料の予測検定を行った。予測方法には各サンプルデータの信頼性を確認するためにleave-one-out法を用い,精度評価には血糖計測で一般的なError Grid Analysis法を用いた.血漿による予測は極めて良好な結果が得られたが、全血では血漿に比べて予測精度が多少低下した。この原因は血球成分の有無であり,これを除去する方法として,全血の物理的特性を用いる方法と,二次微分スペクトルを用いる二つの方法を発案したところ、両法共に血球成分除去の有効性は認められ,特に後者の方法が有効であった.更に,試料の透過光路中に組織を模擬した妨害物質を置き、2つの光路長セル(血液を充填)で得られた分光スペクトルの差分を分析したところ,妨害物質の影響が除去され,血液成分の分光スペクトルのみを抽出できることが確認された。 以上のin vitro実験を通し,本法の基本的計測原理の妥当性が示され,今後は水の吸収波長領域(1100〜1500nm)でも計測可能な瞬時分光測光システムの開発,さらにin vivoによる本法妥当性と精度評価を行う必要があろう。
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