研究概要 |
本研究は,組織を通過した近赤外領域(900-1700nm)透過・散乱光に瞬時差分分光スペクトル分析を行い,妨害物質である組織成分を除去して,血液成分のみに由来する信号成分を抽出し,血糖値を非観血的に計測する方法を探究する基礎的研究を行うことを目的としている。今年度は,前年度の成果に基づき、(1)石英フローセル(2種類のセル長を用い、見かけ上血液容積変化を模擬)と血液以外の組織を模擬した妨害物質(シリコンシート材等)、およびセル内血液を0-80cm/sの流速で還流させることができるシリンジ型ポンプから構成された物理的模擬回路を作製し、現有の近赤外分光器(Spectrum One NTS ; Perkin Elmer社)を利用して本法の検証実験を行った。種々の血液グルコース濃度(60〜450mg/dl)の試料を用い実験を行ったところ、光路長変化(血液容積変化)に対する差分分光スペクトルは血液成分(本研究ではグルコース)の分光スペクトルのみを抽出できることが確認された。この成果に基づき、(2)組織透過光の差分分光スペクトル分析に基づく本計測法を実際のヒト指尖部を計測部位とした場合についての瞬時分光測光システムの基本設計と実験用システムの試作開発を行った。システムの基本構成は、ハロゲンランプを利用した光源、送・受光ファイバ、モノクロメータ、InGaAsマルチアレー光検出器(512ch.)、およびパソコンから成る。本システムの基本性能は、測定波長域900〜1700nm、波長分解能8nm、最大スペクトル速度1800spectra/s、最小露光時間10μsであり、高性能・高精度な瞬時分光測光システムの開発に成功した。ヒト指尖部を用いた実験を通し、スペクトル速度100spectra/s、露光時間10msにおいて、透過光強度-波長-時間の3次元関係が明瞭に計測可能であることが確認され、さらに組織内血液(動脈血)変化に伴う透過光強度変化も全波長領域で良好に検出可能であることが実証され、本萌芽研究の当初の目的を十分果たすことができた。 今後は、世界で初めて開発された本システムを用い、本法原理に基づいてin vivo実験を行い、実試用における本法の原理的検証と血糖値計測の精度評価などの研究を行い、本法原理に基づく小型装置を実用化させ、わが国から非侵襲血糖計測機器を世界に発進していく必要がある。
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