研究概要 |
動脈硬化形成過程において,酸化LDLは血管内皮細胞を活性化し,単球の内皮への接着及び内皮下への浸潤を促進することが知られているが,詳細は不明である.本研究では,酸化LDLが単球-内皮間の複雑な相互作用プロセスのどのステップにどのように作用するのかを明らかにする為,多光子励起型レーザー顕微鏡(MPLSM)を用いた新たな実験系を構築した.MPLSMは従来の単一光子型共焦点レーザー顕微鏡に比べて試料へのダメージ及び蛍光退色が少なく,且つ厚い試料(最大約200μm)の3次元観察が可能である.ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用い,内皮下に非常に薄いコラーゲンゲル層(厚み:30-50μm)を作製することにより,個々の生きた単球の接着・浸潤ダイナミクスを3次元連続観察できる実験系を構築した.さらに,コラーゲンゲル中に予め酸化LDLを混入しておくことにより,動脈硬化病態モデルを作製し,酸化LDLの単球ダイナミクスに及ぼす影響を検討した.本実験モデルにおける酸化LDLの分布を蛍光抗体法にて観察した結果,酸化LDLは内皮下(コラーゲンゲル層)だけではなく,一部は内皮細胞中にも取り込まれており,従来の実験モデルに比べてより実際の病態に近い状態を再現できていると考えられた.単球の浸潤ステップを3段階(1:接着,2:浸潤開始・浸潤中,3 浸潤完了)に分けて行った定量解析の結果,酸化LDLの存在下では,接着した単球の中で浸潤開始・浸潤中まで達したものの割合が有意に増加していたが,一度浸潤を開始した後は,酸化LDLの有無による単球の浸潤ダイナミクス(移動距離,速度等)に有意な差は認められなかった.即ち,酸化LDLは血管内皮接着後の単球の内皮上でのダイナミクスを特異的に促進するが,浸潤中及び浸潤開始後のダイナミクスには影響を及ぼさないことが明らかとなった.
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