本研究では、運動負荷が脳虚血後の全身状態と障害機能回復に与える影響について動物実験により検討することを目的としている。運動負荷は発汗を介して全身状態の重要な要素のひとつである体液量に大きな影響を与えることが判明している。そこで2005年度は脳虚血後の体液量の調節機構の状態を解析し、脳虚血後の運動負荷を始めるタイミングについて体液量調節の観点から検討する基礎データの作成に着手した。 実験では、椎骨動脈が欠損したラットを用い、両側頸動脈を5分間結札して脳虚血を誘発した後、塩分の摂取量を変化させて、体液量の指標となる体重、尿量、尿浸透圧を測定するとともに、腎臓で尿濃縮に直接影響するナトリウムと水の膜蛋白発現をウェスターンブロット法で調べた。モデルにおける脳虚血の存在の確認は、脳を組織学的に解析し、海馬の繊維に障害が認められることを確かめた。 実験結果では、脳虚血直後には一過性に腎尿細管においてナトリウムトランスポーターが増加し、この時期に一致して塩分負荷を加えると、尿濃縮(尿浸透圧の上昇を伴った尿量の減少)が生じ、体液量が増して体重が有意に増加することが判明した。しかし、このような体液量の変化は一過性で、脳虚血後約1週間継続するが、その後は消失することも判明した。また、この間、抗利尿ホルモン依存性の水チャンネルの変化はなかったことから、ナトリウムトランスポーターの変化は抗利尿ホルモンなどの液性因子の影響で変化したのではなく、脳虚血による神経障害に関連した神経性の変化と考えられた。 今回の結果は、脳虚血において、発症約1週間は脳の障害が体液量の調節機構に影響していることを示唆しており、今後、運動負荷の開始時期などを検討していく上で、重要な知見をもたらしたと考えられる。
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