研究概要 |
最近の動物実験による基礎研究から,骨格筋におけるヒートショックタンパク質(HSP)誘導が筋萎縮の軽減や筋肥大の補助,筋損傷の軽減などに有効であるが示唆されている。しかしながら,ヒトの筋組織において安全かつ有効にHSP誘導をもたらす具体的方法については未だ明らかにされてはいない。本年度は,その具体的方法を明らかにするために,確立された温熱療法の一つとしてマイクロウェーブ治療器を用い,単回の照射でヒト骨格筋のHSPを誘導することが可能か否かについて検討した。 平均年齢25歳の男性被検者(n=5)の外側広筋(実験脚)に,出力150wで20分間の条件でマイクロウェーブ治療器による照射を単回のみ行った。表面温度は,サーモグラフィーによって観察した。また,照射24時間後,外側広筋(実験およびコントロール脚)筋腹中央部の深さ2cmの位置より,改良ニードル筋生検法によって筋サンプル(10mg)を採取し,その後の分析まで-85℃で凍結保存した。HSP70の分析・定量は,筋サンプルの調整,蛋白定量,高感度ウェスタンブロッティング法の一連の手続きにより行った。 その結果,本条件での温熱刺激によって,全ての被検者の筋組織サンプルでHSP70の誘導が観察された。その程度は,コントロール脚に対して平均で約40%(10-50%)の増加であった。この結果より,本条件下においてヒト骨格筋のHSP70を安全に誘導することが可能であることが明らかとなった。今後,複数回照射を含めてより有効な誘導方法および時間経過に関する研究を行う必要があるものと思われる。
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