研究概要 |
運動はトレーニング効果として、インスリン受容体を介するシグナルとは別経路で骨格筋における糖輸送担体GLUT4を細胞膜へとtranslocateさせてインスリン非依存性ブドウ糖取り込みを促進し、長期訓練効果としてはGLUT4の量を増加させてブドウ糖取り込み能力を改善すると考えられている。一方静止立位では筋収縮は見られないが、荷重立位状態で足部の乗った板を前後水平に揺すると体幹および下肢筋に筋収縮を引き起こす。そこで、この運動刺激によって肥満耐糖能異常者のインスリン抵抗性が改善するかどうかを検討した。その結果、立位前後水平運動刺激により血糖の低下傾向が認められた。また、変形性膝関節症の膝痛の軽減効果を認めた。脊髄損傷などで歩行訓練が行えない場合、立位前後水平運動刺激は歩行運動の代用となりうると考える。 脊髄損傷患者に立位を取らせるために牽引免荷装置として圧縮空気を利用するPneu-Weight (Quinton, U.S.A)を用いて床前後動揺刺激装置(オージー技研、特注)による刺激を加えた。床前後動揺刺激装置はモーターによる円盤の回転を床板に伝える仕組みで、サイン波での周期的前後動揺刺激を行えるシステムである。スリングは、るい痩の著しい脊髄損傷患者では締め付けによる痛みが出やすいので、坐骨支持を基本とするフローラ式スリングを用いた。このシステムを用いて脊髄損傷者において床前後動揺刺激装置による刺激によって下肢筋に筋収縮が起こるかどうかを確認した。筋電計と表面電極を用いて運動刺激時の筋電図を計測したところ、完全頚髄損傷患者では筋電図が記録されなかった。しかし不全型頚髄損傷患者では下肢筋から筋電図が計測された。 不全型脊髄損傷患者においては荷重立位での周期的床前後動揺刺激によって筋活動が誘発されることから、糖脂質代謝および神経回路回復の可能性があると考える。
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