研究概要 |
抗体を合成して分泌するB細胞やウイルス感染細胞などを破壊するキラー細胞が行う特異免疫応答と運動との関係は、四半世紀前から研究されていながら、未解決の課題として残されてきた。課題解決のネックは、抗体を合成・分泌している細胞を捕捉することが出来なかった点にあったが、これまでの研究によってELISPOT法をマスターできたことから、この問題の解決に突破口が開かれた。運動は血中の抗体レベルを高く維持することを、破傷風トキソイドで免疫し、ERISA法を用いて破傷風特異抗体の濃度を測定するDouglasの実験を追試することによって再確認し、このとき同時にELISPOT法によって脾臓の破傷風特異抗体を分泌しているB細胞の密度が高まっていることを確認できた。血液中の物質の濃度は合成・分泌の速度に加えて、分解の速度による調整も行われていると考えなければならない。前の実験と同様に運動を負荷して、運動プログラムの終了時点で放射能ラベルされた抗体を投与する方法で、放射活性の減衰曲線を描いた結果から、運動は抗体の分解を抑制している事実を確認し、抗体の合成と分解は互いに共同して血中抗体濃度を高く維持していることが判明した。本研究ではさらに、B細胞機能が高まる原因、つまり運動によるB細胞機能の調節のメカニズムを明らかにするために、まったく同じ運動実験を負荷した直後の脾臓から抽出したDNAに対してマイクロアレイを実施し、免疫調節に関わる遺伝子の挙動を調べた。この結果、Interleukin 1 receptor, type II遺伝子の発現が抑制されることを見つけた。この遺伝子の産物は、Interleukin 1 receptorを競合阻害する機能を有することから、ELISPOT法によって得られたB細胞機能の上昇を裏付けるものである。
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