研究概要 |
本年度は、島根県東部におけるオオタニシの実態調査により、性比が著しく雌に偏っていることが示された松江市郊外の休耕田(地点SJ-K)に棲息する集団について、性比の偏りの原因を追及するための発生学的研究と土壌調査を行う一方、マルタニシの生殖分化に及ぼす除草剤アトラジンの影響を調べるための暴露実験を行った。その結果、地点SJ-Kでは、触角の形態によって雌と判定した56個体のうち12個体に精巣がみられ、中には精細管が萎縮しているものもあった。また、地点SJ-Kの集団では、雌の不妊個体の増加や育児嚢内における発生個体数の著しい減少など、明らかな繁殖能の低下が認められた。触角の形態によって雌雄判別した性比の調査で、地点SJ-Kの集団における性比が著しく雌に偏った理由は,何らかの原因によって生殖腺の発達抑制や右触角の雄性変化が抑制されたためと考えられる。その原因について土壌調査を行ったが、重金属の含有量に異常はみられなかった。今後は、ホルモン作用物質について外因性と内因性の両面から検討する必要がある。 一方、アトラジンの暴露実験では、タニシ幼貝を触角の雄性分化が始まるまで室内で飼育することが困難なため、当初の目的である触角の雄性分化に及ぼすアトラジンの影響については、確認できなかった。しかし、アトラジン濃度40ppbに暴露されながら生殖腺分化が起こる段階まで発育した雄個体では、明らかな精巣の発達異常が認められた。これらのことから、タニシの生殖腺分化は内分泌撹乱物質によって障害されることが示された。 これまでの研究により、タニシ類では触角の形態によって容易に雌雄を判定するによって、環境が生物個体の発達に及ぼす影響を知り、タニシが生息する環境について評価するシステムを確立するための基礎的データーを得ることができた。
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