研究概要 |
昨年度から継続して行われたタニシの生殖腺分化に関する研究により、以下のことが明らかになった。(1)休耕田に生息するタニシ集団では、慣行田に比べて著しく個体密度が高くなり、精巣発達の抑制、雌の育児嚢内における発生個体数の減少や不妊個体の増加が起こる。(2)雄の右触角の鈎状化は、活発な精子形成にともなって起こる二次性徴である。(3)内分泌撹乱作用をもつ除草剤アトラジンが精巣発達の異常を誘発し、触角の鈎状化を障害する。さらに本年度では、タニシ類を教材に用いた環境学習プログラムの開発を試みた。小学校では,子どもたちが水田と直接触れ合う体験を通して,自然に対する感性を高め,人間と自然との共生について考えることができるようになることを目標とし,子どもが意欲的に自然に向き合うことができるように、水田に棲息する生き物観察には生き物カードの作成という活動を導入した。また,タニシ類の観察では、生き物を多角的に調べるための技能や態度を身につけるために外観の観察や育児嚢及びその中の胚の観察を導入した。タニシ類は昆虫等に比べると外見的には子どもたちの興味を引くことが難しいという課題はあるが、子どもたちにとってはその内部構造が殻で覆われており、育児嚢や精巣といった未知な部分も多く、興味をもって観察・実験に取り組める。最後に、タニシを中心とした水田に棲息する生き物と人の働きの概念地図を作成し、生物の種間関係を見ていくことで自然のつながりについて考えるようにした。しかし,今回作成した小学校向けのプログラムには自然を評価するための活動が導入されていないため、子どもたちに環境問題の解決に向けた行動を促すことが難しい。今後は、タニシが生息している水田と生息していない水田の環境を比較し、タニシの生息に影響する環境要因について考える学習活動を取り入れる。中学校においては、四季を通して育児嚢内の発生個体の発達段階を観察し、生殖と季節の関係について考える学習活動を行う。高校では、組織標本の観察により精巣の発達と触角の鈎状化の関係について学習し、実態調査によって性比を把握する活動をプログラムに取り入れた。今後は本プログラムを活用した教育実践の結果を参考にして,本プログラムの内容を改善させていく必要がある。
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