研究概要 |
本研究の目的は,項目応答理論(item response theory, IRT)モデルのパラメータをマルコフ連鎖モンテカルロ(Markov chain Monte Carlo, MCMC)法により推定可能なプログラムを作成し,応用研究することである. MCMC法の実現には,Metropolis法・Metropolis-Hastings法・Gibbs sampling法など,いくつかのアルゴリズムが存在する.本研究では,IRTモデルへの適用のしやすさを考慮し,Metropolis-Hastings with in Gibbsアルゴリズムを利用することにした.そして,IRTの基本的なモデルである2-パラメータ・ロジスティック・モデルの項目パラメータと能力パラメータを同時推定可能なプログラムを作成した. IRTによる典型的なテストデータの分析では,1.テストデータから項目パラメータを推定する,2.得られた項目パラメータを真値扱いして能力パラメータを推定する,という二段階の手続きが取られる.この方法では,能力パラメータを推定するとき項目パラメータの標準誤差を無視するので,能力パラメータの標準誤差を過小評価してしまうと言われている.本研究では,その過小評価の程度を調べるため,項目パラメータと能力パラメータを同時推定したときと能力パラメータを二段階推定したときの能力パラメータの標準誤差の大きさをシミュレーション研究により比較した.MCMC法では,項目パラメータと能力パラメータを同時推定でき,両パラメータの標準誤差は相互に自動的に反映される.その結果,項目数が数十項目で被験者が数千人のとき,能力パラメータの標準誤差は同時推定するほうが二段階推定するより数パーセント大きいことがわかった.
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