研究者は、昨年度に引き続き、様々な学会・研究会に出席し他の諸機関の研究者との交流を通じて遺伝学の動向の把握に努めた。主な出席学会・研究会は、日本生命倫理学会、日本医学哲学倫理学会、長崎県国保地域医療学会、岡山生命倫理研究会、西日本生命倫理研究会、長崎遺伝倫理研究会、福岡応用倫理研究会、日本GID研究会、等である。これらの学会・研究会での他の研究者との交流や情報交換によって多くの知見を得た。また、当研究費で購入した多数の書籍・研究資料によって遺伝子研究・遺伝医学の基本的理念の解明を試みた。 遺伝子解明は、当然ながら「治療医学」「予防医学」に貢献する側面を持っているわけだが、それと「予知医学」的な側面をどのようにして明確に区別すべきかというところに、この研究テーマの難しさを感じている。また「予知医学」は人間社会の文化を損傷する恐れを持つと感じているが、果たしてそのような遺伝子研究を制限すべきか、またそのようなことが可能かどうか、難しい閤題であると思う。 それらの難しさは、物資の最小単位である原子核からエネルギーを取り出すという科学的成果によって核開発を進めてきた結果、今になって核のコントロールに世界が苦しんでいることと似てはいないだろうか。つまり、人類は今度は細胞核に手をつけ、遺伝子に介入し操作する技術を手にしようとしているわけで、この技術は容易に遺伝子改造に結びつく技術であり、それが文化や人格の破壊につながり、近い将来に禍根を残すのではないかという危惧があるからである。このような比喩が単なる偶然であれば幸いであるが、両者とも、ある種の「自然性」を越える技術という点では共通性があると思われる。 新年度は当研究の最終年度となるので、図書あるいは論文の形で成果を公にしたいと思っている。
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