今年度は、近世後期の東北南部の地域に生きた在村医たちが遺した史料の収集を主として行った。史料が保存されている所蔵機関や個人宅へ行き、史料の所在の確認および史料閲覧・写真撮影を行った。 現在、医師自らが書いた症例研究報告書である「医按(医案)」・日記・書簡など、在村医間のネットワークを示す史料の収集を行い、逐次読解分析を進めているところである。 「医按(医案)」については、医師仲間で、患者の症例を相互にやりとりしていたと思われる記述や様式が見られ、医師間で研鑚に努めていたことが推測される。また自分の診ている患者へ往診を頼む書簡があり、1人で患者を抱え込むのではなく、他の医師に協力を求めていたことが分かった。 また、在村医の日常の医療活動を知るために、いつ誰に何の薬をどれくらいの量で、またどれくらいの金額で処方したかを記した配剤録を収集し、日常の医療の基本的なあり方を探っている。患者の病気の傾向・受診者の受診の多い月少ない月などについて調べている。 当時の東北地方南部地方の政治経済史も医療史の重要な背景をなすものであるので、地域史関連の文献も参考文献として適宜購入し、読み進めている。また、東北北部の秋田藩・津軽藩の医療に関しては、刊行史料もあるのでそれらの史料なども大いに参考にしながら、地域において医療を支えてきた医師を中心に、近世後期の医療文化について、今後も明らかにしたいと考える。
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