研究概要 |
永い間水に浸った状態にあった出土木製品は,当時の生活などを知り得る重要な文化財であり,出土したときの状態で保存される必要がある.現在の保存処理の主流は,まず出土試料を順次高濃度のPEG水溶液に浸漬させることで木組織内の水をPEG水溶液と置換させ(含浸過程)、その後に自然乾燥あるいは真空凍結乾燥を行って水分を除去するものである.本法は,汎用性も高いが非常に時間がかかり、また処理中に寸法変化が微小ながら避けられない.この乾燥に対して超臨界流体を適用すれば界面応力を抑制でき結果的に収縮なしの乾燥が可能であることは確認されている.一方、含浸過程での時間は、高分子であるPEGを水相中で拡散させるために避けられない問題であり、ここに高拡散性の超臨界流体を利用すれば時間短縮が期待できる。本研究は,保存処理の含浸過程+乾燥過程に、共通して超臨界CO2の溶媒特性が利用できないか否かを検討することが目的である。 本年度は,まず通常含浸法で処理した木製品の脱溶媒へ超臨界CO2を適用した場合について実験を行った。実験では、試料(数cm角)をマンニトール水溶液20%に含浸し、エタノールで置換後、CO2を加圧導入し、40℃・10MPa・1〜2日放置後6h流通(3L(STP)/Min)させ、減圧した。その時の寸法変化は測定5ヶ所においていずれも収縮が0.5%以下の良好な結果を得た。しかし,電子顕微鏡で観察したところ、マンニトール結晶(20μm程度)は木組織まで完全には入っておらず、部分的に結晶化している状態であった。これは,含浸時間が十分ではない状態でエタノールと親和性の高いCO2の導入により表面付近でマンニトールが析出したためと考えられる。そこで,次にマンニトールのエタノール溶液に試料木製品を含浸させ,気液飽和状態(低圧)のCO2を導入し,含浸の高速化を狙った実験を実施・検討中である。
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