有糸分裂期の細胞は間期の細胞に比べて放射線に対する感受性が高いことが知られているがその理由は明らかではない。また、細胞周期の間期におけるチェックポイントの分子メカニズムはかなり詳細に解明されてが、有糸分裂期のチェックポイントによる放射線応答の研究は、ほとんど着手されていなかった。本研究の目的は、有糸分裂期の放射線応答の分子メカニズムを解明することにある。とりわけ、スピンドルチェックポイント中枢分子、Mad2タンパク質に注目し、DNA損傷に応答する下流因子を同定することを目的としている。 Mad2蛋白質に蛍光蛋白質GFPを標識し、Hela細胞内で発現させた。さらにこの細胞が正常に生育することを確認したが、17年度の解析によりこの細胞は有糸分裂中期から後期への遷移が正常細胞に比較して遅延することが判明した。おそらく余分に発現させたMad2タンパク質がスピンドルチェックポイントの解除を抑制しているものと判断し、本研究での使用を断念した。 17年度(最終年度)は放射線照射後の有糸分裂期の染色体動態を観察すべく新たな系の開発を試みた。動原体特異的に存在するヒストンH3のバリアント、CENP-Aを蛍光タンパク質と融合し発現させた。生細胞観察により、この細胞内で有糸分裂期の動原体のダイナミックな挙動がリアルタイムで記録できることを検証した。この系は放射線照射による損傷誘導後の染色体の動態を観察できる有力なものである。
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