環境影響の評価に用いられる様々な生物の中でも、水生生物であるミジンコは、一般毒性試験や水質のモニタリングに広く用いられてきている生物種である。従来の試験法として48時間後の生存率による急性毒性試験や、産仔数の変化に基づく生殖毒性が行われてきた。しかし、こうした方法では、毒性のメカニズムまで立ち入ることができず、化学物質影響の本質的な理解・評価と解決には至らない。そこで本研究では次世代の影響評価系の構築を目的として、ミジンコを用いた化学物質影響の遺伝子レベルでの評価の試みを行った。 まずオオミジンコ(Daphnia magna)からRNAを精製し、cDNAライブラリーを作製した。このライブラリーからランダムにクローンを選択し、その塩基配列を一部解読することによりライブラリーに含まれているmRNAについて解析を行った。また一方で、種々の化学物質を用いてミジンコに曝露を行った。曝露する化学物質としては、節足動物の重要なホルモンである幼弱ホルモンや脱皮ホルモンとそのアナログや毒性の知られている金属などを用いた。この化学物質を曝露したミジンコからRNAを調製し、化学物質暴露による遺伝子の発現量の変化について解析を行った。即ち精製したRNAを鋳型にcDNAを作製した後に、いくつかの遺伝子のプライマーを用いて相対的なmRNA量を定量PCR法を用いて測定した。さらに200遺伝子程度を選択し、遺伝子断片をスライドグラスにスポットし、DNAマイクロアレイのプロトタイプを作製した。これを用いて実験間ごとの変動、コントロール遺伝子の選択とその妥当性、発現が変動する遺伝子の用量依存性と再現性などいくつかのポイントについて検討を加えた。
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