研究概要 |
ミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異についてはミトコンドリア病、老化や細胞のがん化との関連が注目されているが、X線によるmtDNAの変異誘発に関しては明らかになっていなかった。そこで、我々は高感度にmtDNAの変異を検出できる方法を開発して、X線によるmtDNAの変異を解析した。食道がん由来培養細胞株3株、および正常培養細胞株に生存率が0.01となるようにそれぞれX線を照射し、単細胞由来のコロニーを多数分離した。それぞれのコロニーからDNAを抽出し、mtDNAのD310(塩基番号303-309)領域におけるC塩基の繰り返し数の変化、および4977塩基のコモン欠失(塩基番号8,470-13,447)の増減をジーンスキャンを用いて解析した。その結果、正常培養細胞株、および食道がん培養細胞株の内1株においてはD310の変化は殆ど生じていなかったが、他の食道がん培養細胞株2株では、X線の照射によりそれぞれ17.5,34.3%のコロニーにD310の変化が見られ、これらの食道がん培養細胞株2株はmtDNAがX線によって高頻度に変異が誘発されることが明らかになった。また、コモン欠失の解析では、D310に変化の誘発されなかった食道がん培養細胞株1株においてX線の照射によりコモン欠失が増加したが、正常培養細胞株と他の食道がん培養細胞株2株ではX線照射により減少していた。 今後、D310においてX線によって高頻度で変異が生じたメカニズムを知るために、ミトコンドリアにおけるミスマッチ修復等なんらかの修復系の異常や、mtDNAの修復・複製に関わるDNAポリメラーゼγとその修飾タンパク質の変化に注目して解析を進めて行きたい。
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