研究概要 |
バイオエタノールの原料として注目されている未利用木質系バイオマスを利用するためには、強酸や強アルカリを用いた前処理を行い、木質からセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを抽出する必要がある。この前処理は環境に高負荷を与えると伴にコスト面でも問題がある。本研究では新規な環境低負荷型の前処理法の開発を目指し、木材を常温、常圧の条件下で摂食、分解利用しているシロアリの腸内に共生している難培養性の腸内原生動物に注目し、その単離、培養および木材分解機構の解析を試みた。実験には3種類の腸内原生動物(Pseudotrichonympha grassi, Halomastigotoides hartmanni, Spirotrichonympa leidyi)を有するイエシロアリを用いた。はじめにイエシロアリの長期間の飼育が可能で、餌の成分や量を自由にコントロールできる人工餌を開発した。開発した種々の人工餌を用いてイエシロアリを飼育した結果、餌成分の炭素源の種類、分子量および物性により原生動物叢が大きく変化することが示された。例えば、炭素源として高分子のセルロースを含む人工餌を摂食させると3種類の原生動物は健全に維持されたが、低分子のグルコースを含む人工餌を与えると原生動物が全て消失した。また、グルコース人工餌を摂食させた結果、腸内原生動物が消失したイエシロアリにグルコースに代えて木材を摂食させると、すべて死滅した(餌成分をコントロールすることで木材が食べられないシロアリを作製した)。この結果より3種類の腸内原生動物は木材の分解に重要な役割を果たしていることが示された。さらに、3種類の原生動物の諸特性を調べたところ、それぞれの比重やサイズ、温度や浸透圧に対する感受性が異なることが示唆された。これらの諸特性の違いは原生動物を単離する際に有用である。本研究で開発した人工餌と原生動物の諸特性を組み合わせることで、木材分解における3種類の原生動物の役割を解明することが可能であると考えられた。
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