平成17年度においては、水素結合連鎖間の配列様式が制御可能なラジカル誘導体の合成研究、構造-磁性相関を研究目的とした。具体的には、分岐水素結合により集積したナノ棒磁石どうしの配列様式を合成化学的に制御するために、一連のN原子を1つ含むピリド環および2つ含むピリミド環を導入したベンゾイミダゾール誘導体を合成した。 結晶構造解析の結果、ピリミド環を導入した誘導体は、母体と同様の積層カラム構造を形成した。SQUID磁気測定の結果、ラジカル分子間に強磁性的な相互作用が存在することがわかった。窒素原子を介して積層カラム間にも弱い強磁性的相互作用が観測された。一方、ピリミド環を導入した誘導体では、結晶性の化合物が得られなかった。複数のプロトンアクセプターサイト導入による分子内および分子間水素結合の乱れが生じたと判断した。 低温で3次元的な強磁性スピン整列が観測された誘導体について、交流磁化率測定を行ったところ、約1Kでバルク強磁性体に転移していることが確認された。積層カラム内の強磁性カップリングに加え、積層カラム間の相互作用がバルク強磁性発現に大きく寄与していることを合成化学的に実証することができた。 以上より、ベンゾイミダゾール環に窒素を1つ導入すると、積層カラム環の磁気的相互作用が促進されるというナノ棒磁石のスピン整列に関する新たな知見が合成化学的に明らかにされ、1次元性の強い物質系でもバルク強磁性体に変換できることを示すことができた。
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