本研究は、環境汚染物質の検出用マイクロチップや生化学検査用のマイクロチップに適度な膜強度を有する酵素含有リポソームを導入し、検査対象物質の酵素反応によって放出されるリポソームの内包物質を新たな測定対象として、検出感度を化学的な手法で増幅することを目的としている。 初年度の平成16年度は、超臨界二酸化炭素を用いて「酵素を含有したリポソーム」の作製が可能であるかを検証した。実験は、東京理科大学に設置された超臨界流体式リポソーム製造装置を用いて行った。酵素としては、取り扱いが容易で、生化学的血液検査で過酸化水素を検出するのに使用実績のある西洋わさびパーオキシダーゼを用いた。以下に実験方法を述べる。 1)西洋わさびパーオキシダーゼと膜物質を粉体のままで超臨界流体式リポソーム製造装置の温度管理されたセルに入れる。 2)高圧の二酸化炭素を導入して超臨界状態にした後、一定の速度で内包色素(赤キャベツ色素)の水溶液を注入する。 3)注入が終了したら、セル内の二酸化炭素の圧力を若干の加圧状態になるまで減圧し、残った圧力でリポソーム分散体を細管状の取り出し口から押し出して回収する。 4)リポソームを光学顕微鏡で確認し粒度分布を測定する。 膜物質としては、典型的なリン脂質である(DPPC)、米糠から精製したワックス成分(ライスワックス:融点の高い成分を硬蝋、低い成分を軟蝋と呼ぶ)を用いた。いずれの場合も安定した分散状態を保持したが、リポソームの作製に良く用いられているDPPCよりもライスワックスを用いた方が分散体の安定性が高く、軟蝋>硬蝋>DPPCの順番であることがわかった。また、光学顕微鏡による観察と粒度分布の測定結果から、いずれの場合も1.5μm径以上のリポソームが出来ており、特に軟蝋を膜物質として用いると3μm径〜4μm径にピークを持つ粒度分布が得られることがわかった(体積平均)。
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