今年度は特にGCN経路の動態を出芽酵母細胞の細胞質におけるヒスチジン濃度によってモニターするためのナノセンサー分子の開発を行った。 ヒスチジンセンサー部分としては、大腸菌Escherichia coli由来のヒスチジン結合性PBPであるHisJを利用した。HisJタンパク質はヒスチジンの結合によって構造変化を生じることが知られている。この構造変化を非破壊的に検出するため、蛍光物質間のFRETを利用した方法を採用した。HisJタンパク質のN末端およびC末端にそれぞれEYFP(黄色蛍光タンパク質)およびECFP(シアン色蛍光タンパク質)を融合させたタンパク質FLIPhis(FLuorescent Indicator Protein for histidine)を設計した。ヒスチジン濃度に依存したHisJタンパク質構造変化に伴って、2つの蛍光タンパク質間の距離が変化することにより、これらの蛍光タンパク質間で生じるFRETの効率に変化を生じると考えられた。一般に、PBPは基質に対する親和性が非常に高く、細胞内でセンサー分子として利用するためには親和性を低下させる必要がある。そこで、過去の報告を基に、HisJ部分にアミノ酸置換を加えた変異体FLIPhisを作成した。 大腸菌においてFLIPhisおよびFLIPhis変異体を大量発現、これを精製し、各濃度のヒスチジン存在下における蛍光スペクトルを測定した。その結果、構造から予測されたように、ヒスチジン濃度に依存してFRET効率が低下することを確認した。また、2つのアミノ酸置換を加えることで、100μM付近にK_d値を持つヒスチジンナノセンサータンパク質FLIPhis-100μを得た。更に、出芽酵母細胞内において、FLIPhis-100μタンパク質を発現させ、ヒスチジンナノセンサーとして機能することを確認した。
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