研究概要 |
線状DNA分子の分子生物学的解析のために、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)による院内感染事例(1999年)で分離されたP8065株(E.faecalis)を使用した。 1.塩基配列データの解析 P8065株には31,325bpと31,135bpの2種類のDNA分子の存在が確認された。これらは極めて似た塩基配列を示す領域を持つ一方、それぞれユニークな領域も存在した。ホモロジー解析の結果、Bacillus subtilisを宿主とするφ29phageと高い相同性が認められた。これらDNA分子を仮にφpVRE-1(31,325bp)とφpVRE-2(31,135bp)とした。 2.病原性関連遺伝子および薬剤耐性遺伝子の解析 該当する遺伝子は検索されなかった。 3.線状DNA分子の菌株・菌種間での分布解析 PFGEとサザンハイブリダイゼーションにより供試E.faecalis338株中99株(29.3%)からDNA分子が検出され、分離年度・場所による検出率の違いはなかった。同一PFGE泳動パターンの院内感染由来VRE19株中P8065株以外に3株にDNA分子が認められた。φpVRE-1、φpVRE-2各々に特異的なプライマーによるPCRの結果、検出されたDNA分子は少なくとも3種類のDNA分子(φpVRE-1、φpVRE-2、non-φpVRE-1/φpVRE-2)が存在した。これらのDNAサイズ(30-63kb)には多様性が見られた。E.faecalis以外のE.faeciumなどの菌種にDNA分子は認められなかった。 4.線状DNA分子の誘発・感染実験 DNA分子はファージとする仮定のもとに誘発・感染実験を試みた。培養液中にはφpVRE-1、φpVRE-2が存在し、染色体DNA由来遺伝子と異なりDNaseに対して耐性を示し、PCRにより増幅がみられた。マイトマイシ誘発・UV照射により非保有株への感染実験を行ったが、プラーク形成法およびPCRによる感染の確認は得られなかった。
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