研究概要 |
個体の体温調節は、哺乳動物などの恒温動物に限られたものではなく、昆虫や単細胞生物においても、適当な温度域に移動して個体の温度環境を一定に保つことが知られている。一方、各個体が選択する至適温度は、生物種によって、また同一種においてもその生活環境により異なることが知られている。しかし、個体がどのようなパラメーターに基づいて至適温度設定を設定しているのか、その分子メカニズムは依然として不明である。本研究では、ショウジョウバエの温度選択行動を指標にした分子遺伝学的手法を駆使することにより、温度受容及び個体の至適温度設定に関わる遺伝子群の網羅的な検索を行った。昨年度の研究において、ショウジョウバエ幼虫の温度選択行動を定量的に測定する装置を自作し、ショウジョウバエ3齢幼虫がその飼育温度に依存した明確な温度選択性を示すことを明らかにし、さらにP因子挿入による突然変異誘導体を作製・スクリーニングし、温度選択行動性に異常を来した変異体群、atsugari, samugari, atsusashirazuを同定することに成功した。強い低温選択性を示す突然変異体atsugariの原因遺伝子の解析の結果、ショウジョウバエにおけるジストログリカン相同分子の発現低下により低温選択性が誘導される可能性が示唆された。本年度、ジストログリカン遺伝子導入個体の作製、ならびにRNA interferenceによるジストログリカン遺伝子発現抑制など様々な分子遺伝学的手法を駆使することにより、ジストログリカンの発現低下により低温選択性が誘導されることを明らかにした。さらにatsugari変異体は低温選択性のみならず顕著な低温耐性をも示すことを見出し、これらatsugari変異体の温度応答の異常が低酸素状態の誘導により引き起こされている可能性を示唆する知見を得た。
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