2005年春に提出した論文「スターリンと中東鉄道売却」の校正を進めた。1931年の満州事変勃発から、1935年の満州国への中東鉄道の売却に至る過程について、スターリンの対応を最近刊行された新史料をもとに検討した。売却先は満州国であるが交渉相手は日本であり、1930年代前半のスターリンの対日政策の一側面をあきらかにすることができた。本論文は2005年10月に『東北アジア地域史研究の一視覚』の一論文として山川出版社から刊行された。 2005年10月4-19日にロシア外務省アルヒーフ(文書館)及びロシア国立図書館(旧レーニン図書館)で関連史料を収集した。2006年2月に別の科研の経費でモスクワを訪問した際に、この調査時に注文したコピー資料を入手し、それらをもとにさらに研究を進めている。一方で2005年10月の本科研費による滞在時と2006年2-3月のモスクワ滞在時(別の科研費による)に、関連書籍を大量に入手することができた。 10月21-22日に東京の成蹊大学で行われたロシア史研究会の年次大会では、『ロシアにおける「田中上奏文」:満州事変に関するロシア史学の現状』と題して報告し、戦間期の日ソ関係について、特に1990年代以降のロシア語による研究書を批判的に分析した。歴史的史料に基盤を置かず、冷戦時代のイデオロギーを反映した研究が現在のロシアでも続けられている現状について偽書「田中上奏文」を例に批判した。日ソ関係を研究するには日本ばかりでなくロシア側研究者の研究の進展も望まれるが、新しい視点から叙述を試みる研究者は今のところ少数にとどまっている。12月17日に一橋大学で行われた近代東北アジア地域史研究会に参加して、満州問題に関連した発表を聴講した。
|