2005年度は前年に引き続き、夏休みにベトナムの少数民族地域で民族分類に対する少数民族側の意見を直接聞き、一民族としての認定の要求に国家がどう対処しようとしているのか調査を行った。まずラオカイ省で、トゥーラオの状況を調べるために中国国境に位置するムオンクオン県へ向かった。トゥーラオが集中するターザーコウ村(国境から3キロ地点)を目指したが大変な場所であった。一日目は村の中心地まで行けず軍の辺境防衛部隊の駐屯所に宿泊、翌日徒歩で山道を数時間行ったが、村には水も電気もなく食糧は蒸したトウモロコシの粉だけで、集落長を除きほとんどベトナム語が通じなかった。最多少数民族であるタイー族に含まれているトゥーラオは、タイーからの分離を要望しているとハノイで聞いていたが、かれらは公定民族分類自体を認識していなかった。しかし中国側との結びつきは強力で、ベトナム語は話せなくても民族語のほかに西南華語(雲南方言)は達者であった。その後県の中心地に近いタイビン村でトゥジについて調査した。トゥジは公定民族分類ではボイ族とされているが、かれら自身は身分証にもトゥジと記入しており、地元ではサブグループではなく一民族としての扱いを受けていた。その他、隣のシマカイ県のタオチューフィン村でトゥーラオについて調査を継続した。これらの結果、昨年調査した東北山間部に比べて、西北山間部ではサブグループ自体が一民族と同等の取り扱いを受けているケースが多く、民族としての分離要求の声も小さいことが判明した。地元では中央の決めた54の民族分類にはあまり留意しておらず、少数民族側の自己認識に行政側も任せており、不都合は生じていない。ハノイからの地理的距離が、政治的距離にも比例しており、国家の定める公定民族分類が有効に機能していないかわりに、これに対する不満も大きくないことが明らかになった。18年度は中部山岳地帯について調査を継続したい。
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