今年度は、前年度に引き続き、環境哲学・環境倫理学・環境思想研究者と保全生態学や野生生物管理学、環境社会学・環境史の研究者の交流と、生物多様性保全や自然再生にかかわる理念的研究の学際的な組織化を行ってきた。 2005年7月には、サルの「いわゆる」獣害問題を巡って、現地の研究者と、環境社会学・環境史の研究者に報告をお願いし、上記のさまざまな研究者を招いて、その問題の核心について議論する研究集会を開催した。「いわゆる」をわざわざつけたのは、前年度のクマの問題も同じであるが、「獣害」という表現は、「問題」を一面的に捉えた表現であるからである。「問題」の本質は、野生生物のリスクも保護も含めた形での人と野生生物との関係性のあり方であり、それにかかわるさまざまな「問題」の解決は、生物多様性をどのように捉えてその保全を考えるか、「問題」の解決に至る「自然再生」はいかにあるべきかという、実践的で、しかも理念的な問題として捉えられるからである。 2006年1月と3月には、これまでの集大成として、風土性、公共性という概念を軸に、公共哲学の視点を入れて、環境哲学・環境倫理学の問題を総括的に議論するようなシンポジウムとワークショップを、千葉大の公共研究のCOEと共催で開催した。参加者は、この萌芽研究で組織化してきた学際的な研究者を中心に、環境経済学、環境政治学の研究者も含めており、より広範な組織化を狙った。 この萌芽研究の研究活動を通じて、生物多様性保全や自然再生の理念を考えたとき、ほぼ網羅する人文社会科学と自然科学の研究の領域を組織化したことになる。この萌芽研究の成果として研究成果報告書を作成した。本研究で研究助成を受けたさまざまな形態の研究集会で議論してきた内容を活字化するとともに、参加した研究者や大学院生の論文も収録した。その一部に関しては、東大出版会から出版することも計画している。
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